錆びた鉄の錆を除去することは可能ですが、その物が錆びる前の状態へ復元することは出来ません。
鉄が酸化した状態、赤錆Fe₃0₄、酸化鉄3Fe₂O₂等から酸素を取り除くことは通常のめっき工程、やや工夫しためっき工程にて十分に除去できる。
Fe₃O₄(錆びた鉄) + 6HCl(塩酸) → Fecl₂ + 2FeCl₂ +4H₂O
Fe₃O₄(錆びた鉄) + 4H₂SO₄(硫酸) → FeSO₄ + Fe(SO₄) + H₂O
上記の式のように、酸素と結合したした鉄から、塩酸、硫酸を用いて酸素と分離出来る。しかし、酸化した鉄は「質量保存の法則」により結合した酸素の分体積が増す。鉄が錆びるとボコボコになるのはこれが原因である。そのボコボコになった部分から酸素を取り除くと、巣穴状態になった鉄だけが残ることになる。あまりに錆が深い場合は、その除去すら難しい場合もある。そして、そこへめっきをすると、その部分はそのままのめっきがされる。梨地のようなめっき被膜になるが、巣穴が開いている分、表面状態はさらにたちが悪く、薬液などをポケットに保水し、後から垂れてくる等の不良の原因になりえる。
バレルにてめっきすると、酸素を取り除かれ脆くなった部分は共摺りにより削り取られ、凸部は平滑に近くなるが、凹部分が目視にてわかるくらい荒れためっきになる。
下の写真は新品のめっき品である。
真っ赤に錆びた別個体であるが、似たようなめっき品。
下の写真は、上の写真の物を再めっきしたもの。同じ個体である。通常行程では錆が落とせなかったので、特別に強い酸洗処理を施した。
ガサガサの肌にそのままめっき被膜がついている。これがめっき屋の「錆を落とす」である。鉄が錆びる前の状況へ復元をすることは出来ない。写真ではわからないが、素材内部にも巣穴が存在すると思われ、脆さや、後の変色の原因となる。水素脆性も進んでいると思われ、強度も期待できない。
よくお客様より上記の説明をすると、「めっきを厚くして覆いかぶさることは可能か?」と聞かれます。回答としては、技術的には考えられますが、亜鉛めっき屋には無理です。コストも出ないと思われます。
目視にてポチっと異変がわかる状態は、概ね100μ程度の異変がそこに存在していると言える。以下にて、本当に小さな白い穴が、めっき屋目線ではどれほど大きなものかを説明する。
SPCC材を拡大撮影したもの。梨地や汚い欠陥表面ではなく、めっき後で、それなりの光沢感のある表面で。右上写真中央の黒い部分は、表面に若干の白い点があり、それの解析を行った際の拡大写真である。下のグラフで分かるように、75μの深さにて穴が開いているのがわかる。
この白い粒粒が上の解析写真である。この製品は錆びたわけではない。それでも表面に深さ75μの穴が開いている。梨地などではこれ以上の数値の深さになると思われる。錆にて出来た凸凹はこれよりも状態が悪いと思われる。
亜鉛めっき JIS1級~4級で3μ~13μである。弊社でのめっきは概ねこの範囲です。数十μのめっきは電気亜鉛めっきの範疇ではなく、その手のめっきが必要ならば、下記のような手段が考えられる。
硬質クロムめっきでは、油圧シリンダー等の微細な穴、傷を埋める方法があり、数百μめっきし、研磨にて再度寸法出しをするという方法が可能である。
溶融亜鉛めっき(通称どぶめっき)は0.1㎜~1㎟近いめっきが可能である。ネジなども厚くめっきしてから、ネジを切りなおすという方法が取られるケースがある。
自動車のカスタムホイール等のリペア等で、銅とニッケルを100μ近くつける等の方法がとられることもある。また、各工程間でバフ研磨を組み合わせながらめっきを進める方法もある。
・鉄を錆びさせないで下さい。
・錆びる前にめっきさせて下さい。
・錆びてしまった製品を、見た目、強度的に復元することは不可能です。